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先進的な取組み

【インタビュー】世界遺産×ICT -アヴィニョン教皇庁のHistoPadへの取組み

タブレットをかざした方向に合わせて、各部屋の当時の様子がうかがえる
南フランスが誇る世界遺産の街・アヴィニョン。この街のシンボルともいえるアヴィニョン教皇庁では、来場者全員にHistoPadというタブレットを配り、バーチャルで当時の歴史を再現する取組みを行っている。

アヴィニョン教皇庁は教皇のアヴィニョン捕囚から教会大分裂の時代(1309年から1377年まで)に教皇がローマから移り住んだ宮殿である。
外観は宮殿というより要塞のようで、世界最大のゴシック様式宮殿である。
アヴィニョンの街自体は今でも城壁に囲まれている。アヴィニョン教皇庁は、歌で有名なアヴィニョン橋の手前に位置し、自他共に認めるアヴィニョンのシンボルである。
アヴィニョン教皇庁

アヴィニョンで行われるHistoPadの取組みとは

そんなアヴィニョン教皇庁で取り入れられているHistoPadは、元々あった7か国のオーディオガイドの史料をもとに作成されている。
来場者はチケット購入後ロッカーに荷物を預け、HistoPadとヘッドセットを受け取る。HistoPadに表示される順路に従って進んでいくと、部屋の中央にあるポータルをスキャンするよう指示される。
指示通りスキャンすると画面上に当時の様子が映し出され、当時の音楽と共に部屋の簡単な説明が流れる。

実際は石造りのまっさらな壁に、考証により再現された色や模様のついたタペストリーや、当時の人々の様子が360°再現される仕組みになっている。

現在地と順路が表示され、広い宮殿内でも迷うことがない
部屋に入るとポータルでスキャンするよう指示される
ポータルでスキャンする様子

新しい技術と中世がぶつかる瞬間…HistoPadの魅力とは

HistoPadを取り入れた背景やその後の変化について、アヴィニョン・ツーリズムの広報課長 Sylvie JOLYさんにお話を伺った。

- HistoPadを取り入れようと思ったきっかけはどんなものでしょうか?
きっかけは4つあります。
1つは、このアヴィニョン教皇庁は教皇がローマに戻った際に様々な文化財ごとローマに戻されてしまったために、殺風景な部屋が多く、意外と見るものが少ないことです。
2つめは、アヴィニョンは文化的な街であるというイメージを作ろうという市長の考えがあったためです。
アヴィニョンには、像や城があるように文化的で歴史的な街です。ユネスコの世界遺産にも登録されています。いろんな人々にもっとそういう意識をもってもらいたいというが3番目の理由です。
4つ目の理由は、アヴィニョンに来る若者や家族などの教育を受ける者を増やしたい、ということです。
- では、ターゲットは若者や家族ということですね
あとは地元の子供たちもですね。またここに来たいと感じてもらいたいです。
以前からオーディオガイドはありましたが、若者はマルチメディアに興味がありますから、HistoPadの方がより響くのではと考えました。
- HistoPadを作っている企業とは、どのように連携して進めていったのでしょうか?
HistoPadの制作にはだいたい1年かかりました。
アヴィニョンより前に既に導入されていた施設を専門家と共に視察し、グループを作ってプロジェクトを始めることになりました。
調査をしながらHistoPadに正確に歴史のコンテンツを再現する作業は、我々にとって非常に重要なことでした。HistoPadの会社はまだ若い会社だったため、中世に詳しい方々の団体と新しいマルチメディアの団体とが一緒に仕事をするには、きちんと連携して進めていかなければならず、大変でした。HistoPadの方々が当時について、「どういう衣服だったか」、「どういう建物だったか」などのシナリオをまず再現し、それに対して専門家から、「いやもっとこんな色だった」、「こんな形だった」と指摘が入り、何度もディスカッションして作りました。
新しい技術と中世がぶつかった面白い瞬間でもありました。
- HistoPadを取り入れたことで、来場者数に変化はありましたか?
来場者数は3~7%ほど増えています。しかし、HistoPadの導入だけではなく、アヴィニョン教皇庁を会場としたイベントも増やしています。それもアヴィニョン教皇庁に興味を持ってもらうきっかけになったと思います。
- どのようなプロモーションをされたのですか?
HistoPadには7つの言語が備わっています。もちろん日本語も。海外旅行を取り扱う旅行会社へのアプローチはもちろんしました。その他にも地元の子供たちを招待するといったこともしました。
海外のワークショップなどでは必ず案内しましたね、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本など…新聞記事に特集が組まれたり、ガイドブックにもよく載るようになりました。そのおかげで知名度はかなり上がったと思います。

機械だからこその工夫が必要な点も。より快適にご利用いただくために。

- 画面がつかなくなってしまったとか、反応しなくなってしまったとか、機械トラブルはどのように対応していますか?メンテナンスもどのようにされているか知りたいです。
初めのうちはトラブルもありましたし、メンテナンスも大変でした。でも今は慣れてきてそんなでもないです。HistoPadが1,000台あるとはいえ、一度に1,000人来るわけではありませんし、ロッカールームがあって荷物も預けていただくので混乱もありません。
2017年の10月からこのHistoPadを導入していますが、それから来場者数はずっと増えています。メンテナンスはそういうチームを組んでいて、来場者の使用ごとに毎回クリーニングしています。ヘッドセットも全てきれいにします。
返却の様子
- 来場者全員にHistoPadをお渡しするということですが、言語の問題はどのように対処されましたか?
HistoPadのセットアップはお客様ご自身にやっていただいています。ものすごく簡単ですよ。
すべてのタブレットにすべての言語が入っていますので、最初に選ぶだけです。あとはその言語で指示をしてくれます。
荷物を預けた後、ここでHistoPadを受け取る(使用方法を説明する映像も)
日本語選択後のスタート画面
- お子さんでも問題ありませんか?
5,6才以上向けの宝さがしゲームも入っています。家族で来た時に、大人が細かい歴史の知識について学んでいる間も同時に、子供達はゲームを楽しむことができるのです。
部屋の中に入ってHistoPadをスキャンすると、ベーシックな知識は勝手に流れます。より詳しく知りたい場合には、虫眼鏡マークを押すとさらに詳しい情報を知ることができます。
来場者の知りたい情報にはさまざまなレベルがありますので、1時間でも2時間でも、自分が好きなだけ学んでいただくことができます。
- 様々なレベルを用意しているからこそ、リピーターにもつながっていくのですね。
その通りです。来場者の満足度調査では90%を超えています。どんな言語の方でも、年齢の方でもどなたでも楽しんでいただけます。
ベーシックな知識
虫眼鏡マークを押すとより詳しい説明が表示される
- 来場者全員にHistoPadをお渡しするにあたって、入場料はどのように変化したのでしょうか?
アヴィニョン教皇庁では入場料は値上げしていません。もともとの€12.00に含まれています。
来場者数が増えていますので、それでバランスがとれています。
- ガイドさんとの関係性はいかがでしょうか?
ここの中でもガイドツアーはやっていますよ。団体によってはガイドツアーを予約するし、学生団体だったらHistoPadを使うなど、好みによってご選択いただいています。
ガイドさんもHistoPadを使用しています。HistoPadを使用した案内に変わるだけで、ガイドさんの仕事が減るわけではないので、さほどトラブルにはなりませんでした。
- 世界遺産に最新技術を入れることについて、他に反対意見はありませんでしたか?
もちろん反対意見はありました。新しいプロジェクトですから、懐疑的な人々もいます。ヨーロッパの人は新しいものや知らないものに対してはまず反対。でも実際に自分が使ってみるとだんだん広まっていくのです。
HistoPadが成功した一つは、例えば対話しながら見たい人はガイドツアーに申し込むし、HistoPadだけでいいという人もいて、人それぞれ選べることだと思います。
私が思う一番重要なターゲットは若者です。こういった歴史や遺産に興味のある若者は年々減っています。博物館に来る若者も減っている。そういった若者も、HistoPadだったら来てくれるかもしれないと考えました。
- 最初から海外の方が来てくださるように、ということばかりでなくて、地元の方・若い方などに応援してもらえるように仕組みを作っているというわけですね。
そうですね。もちろん海外の方も大切だけれども、まずは地元の若い方を大切にしています。アヴィニョンは文化的な街ですので、自治体も関わって無料で見られる施設を増やして、まずは教育の観点で新しい来場者を呼びたいと考えています。

誰もが理解できる歴史コンテンツに。古い建物と現代技術の融合。

- 最後に、HistoPadを取り入れてみて一番の良かった点はどこですか?
個人的な意見ですが、若者に文化の知識を提供できることと歴史的なコンテンツを誰もが理解できる形にできたことだと思っています。ここのような古い建物と今我々が日常使っている技術とが組み合わさったのは、とても価値のあることだったと思います。

アヴィニョン・ツーリズム公式HP
https://avignon-tourisme.com/

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