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先進的な取組み

【インタビュー】アメリカ・ヴァージニア州「ジェームスタウン・セトルメント」と「ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館」の取組み

ジェームスタウン・セトルメント
1607年英国人入植当時の3隻(再建)
米国建国史を語るうえで重要な意味を持つヴァージニア州。
「ジェームスタウン・セトルメント」、および「ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館」は、教育をつかさどる州立機関が運営する屋内外博物館である。前者は17世紀イギリス人入植時、後者は18世紀の独立戦争当時の様子を伝えるものだ。

短くも複雑な歴史をいかに正しく伝えるか。それは米国の教育機関にとって非常に重要な課題である。

当インタビューでは、両施設の営業統括部長および教育、衣装、プログラム担当者に取材。
官民超えた連携、テクノロジーだけでなく人による説明を重視する理由、スタッフ自らが興味を持ち学ぶことで施設の価値を向上させている点、また学校訪問など長期的な視点によるファンづくりの手法など、日本の施設でも取り入れられそうな点を調査した。

17~18世紀米国の英国人入植から独立までの歴史を体感的に伝える2つの州営施設

ジェームスタウン・セトルメントは1957年、ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館は1976年のオープン。それぞれ設立当初からリビングヒストリー形式で運営する、いわば老舗である。いずれも巨大スクリーンやインタラクティブなタッチスクリーンが完備された屋内展示と、当時の暮らしを体験できる屋外リビングヒストリーエリアに分かれている。

ジェームスタウン・セトルメントの特色は、先住民ポウハタン族、ヨーロッパ人、アフリカンアメリカンそれぞれの文化と歴史を体験できる点にある。再建された入植時の巨大帆船、先住民集落、英国人軍事基地内の教会、法廷、知事邸宅、さらには食糧やたばこ栽培の様子が見られる。

ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館は、4D映像やドラマチックな特殊効果を使った巨大シアターが高い評価を得ているほか、屋外では軍隊キャンプや外科治療、調理デモンストレーション、農場での様々な作業体験ができる。

4D体験型シアターでは、風、煙、大砲の雷鳴で
1781年ヨークタウンの戦いを体感

体感プログラムや演劇、アートにより歴史ファン以外にも訴求

ジェームスタウン・セトルメントでエデュケーションディレクターを務めるハウウェル氏と、ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館で博物館運営・教育シニアディレクターを務めるアームストロング氏に話を伺った。

- リビングヒストリープログラムを開発した理由は何ですか?
観光客をワクワクさせ、歴史を理解しやすくするためです。米国は日本や欧州に比べ歴史が浅いです。だからこそ、リビングヒストリーを活用して歴史を紹介して、多くの方により分かりやすく伝え、興味を引くようにして、この国の歴史を理解させたいと考えています。
米国の歴史は、とても複雑で難しいです。それよりは、親しみやすい「衣食住」から始めること。当時の衣装を着て、昔の食べ物の匂いを感じ、建築物を体験する、五感で感じるプログラムが最適です。
- 昨今はARやAIのようなテクノロジーの活用で価値を向上させようとする博物館が多く見られますが、それについてはどう思いますか?
映像や音響を駆使した体験のほうが分かりやすい場合もあります。例えば、ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館では、マスケット銃の使い方を紹介していますが、このような時はテクノロジーが役に立ちます。また、ITは多言語対応にも有用です。
一方、手に触れ、匂いを嗅ぐという五感に訴える体験ができるリビングヒストリーアクティビティは、人の記憶に留まりやすく、外国人などの言語で意思疎通ができない人にも効果的です。

我々も多くのアプリを開発しましたが、人と人との対話や説明に人気があります。それは来訪者調査でも結果が出ています。
- ヨークタウンアメリカ独立戦争博物館では、海洋アート展や歴史再現イベントなど、年間を通して様々な特別企画を行っていますが、その効果はいかがでしょうか?
普段は博物館に来ない人が来訪する機会になっています。例えば、演劇や美術展を行うと、演劇や美術ファンに来てもらうことができます。同時に大規模な歴史再現イベントも計画されており、博物館の本題である歴史への関心に繋げます。これも通常の入場料で見学できるもので、評判がよく、40年間も続いています。

大切なのは「生身の人間が語る言葉」。スタッフ皆で作り上げるプログラム

- リビングヒストリープログラムを運営する上で、どんなことを大切にしていますか?
利益や来訪者増加だけなく、学びになることが大切だと思います。プログラムを実践する中で気付いたのは、昔の軍事訓練や普通の生活体験をすることで、より歴史に興味を持ち、理解を深めることができるということです。
これは、文化を保護する観点でも意味があります。例えば、ジェームスタウン・セトルメントではポウハタン族の文化を紹介しています。この文化は英国人入植により失われてしまいましたが、同プラグラムにより現代に復活させ、後世に語り継ぐことができるようになりました。
- リビングヒストリーエリアのスタッフはどのような形で表現をしていますか?
生身の人間が語る言葉を重視し、当時のスタイルの演者が演技をする方法と、現代のスタイルで過去を説明する方法の両方を取っています。前者は来場者の興味をひきやすいですが、後者の方が来訪者にとっては質問しやすく、双方向的なコミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。
- スタッフは歴史のエキスパートを集められているのですか?
いえ、ボランティアも多く、イベント出演募集はボランティアコミュニティで行っています。実演スタッフたちは、日々の業務の中で学んでいっています。そして自分の歴史への関心を深め、エキスパートになっていきます。それはスタッフを成長させることであり、施設としての価値を高めることに繋がります。それが、利益や観光客増加に加えた、大きなメリットになっていると考えています。

出張授業も開催。施設内だけにとどまらない、長期的な歴史教育

- メインターゲットはどのような層ですか?
あらゆる層が来場しますが、若い家族客が多く、60%が個人客、40%が団体客です。ヴァージニア州以外からが70%、海外からは7%です。

団体の多くは学生であり、ヴァージニア州内から、次いで東海岸から多く訪れます。ここは米国の歴史を学ぶのにふさわしい場所なので、西海岸等の遠方からも1~2週間の研修旅行に利用されます。ヴァージニア州では歴史教育の一環で奴隷制度についてここで学ぶ機会を設定しています。
- 学校への営業活動はどのように行っていますか?
両施設のミッションは教育です。旅行会社が学校へ営業活動により研修旅行やサマーキャンプを取りつけるほか、職員が州内の学校に行き歴史講義を行っています。さらに州外や国外などの遠方はスカイプによる講義も可能です。学校向けの歴史教育は無料で行っていますが、こういった活動に賛同した方から多くの寄付を受けることに繋がっています。

周辺施設と連携した集客~周遊プログラム作り

- 収益構造について教えてください。
両施設は州立運営であり、50%が州の費用、50%が入場料収入と寄付です。
近隣で私設財団が運営するコロニアルウィリアムズバーグとの共通チケットも採用。州からの歳入は限りがあるので、官民超えて連携しチケット収入を増やす工夫をしています。
- 海外へのプロモーションはされていますか?
州や国の観光局の力も借り、国内外の旅行会社やコンベンション組織への営業活動を行っています。メディア展開として雑誌や新聞に記事を掲載してもらう活動もしています。

英国に住んでいた時、日本の施設の英国向けのプロモーションに関わりました。
航空会社と連携し、徳川将軍のスタイルで宣伝活動をしていました。そういったことも一つのアイデアだと思います。

複雑な歴史を抱える米国において、歴史教育は非常にデリケートな課題。今回取材した2つの州立施設は、リビングヒストリープログラムを、米国民が若いうちに歴史への興味と正しい認識を持つ仕組みづくりのために利用している。
スタッフ自らが学ぶことに喜びを感じたり、施設外への出張講義を行うなど、長期的な視点で成長することが、本プログラムの何よりの成功要因と言えるようだ。

ジェームズタウン・ヨークタウン財団HP
https://www.historyisfun.org/

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