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先進的な取組み

【インタビュー】秋田県男鹿市で行われる男鹿真山伝承館の取組み

伝承を忠実に再現した「なまはげ行事」が体験できる施設

男鹿真山伝承館は秋田県男鹿市に位置し、年間を通じて男鹿市の伝統行事である「なまはげ行事」を体験できる施設である。
なまはげは1978年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2018年には「来方神:仮面・仮想の神々」の1つとしてユネスコ世界無形文化遺産にも登録された民俗行事である。
男鹿市には140を超える地区があり、それぞれの地区で大晦日の夜になまはげ行事が行われる。

男鹿真山伝承館が位置するのは真山地区であり、この地区のなまはげ行事を忠実に再現している。
なまはげは地区ごとに面の形や持ちもの等も異なる。男鹿市の各地区のなまはげの特徴に関しては男鹿真山伝承館に隣接するなまはげ館にて鑑賞することが可能である。

「なまはげ館」と「男鹿真山伝承館」の役割

○男鹿真山伝承館のプログラム

男鹿真山伝承館は、男鹿の古民家を活用している。
ここでは、真山地区で大晦日に行われるなまはげ行事の再現を年間を通して見学することが出来る。

まず初めに解説者が登場しなまはげ行事に関する説明を行う。
その後、家主役が登場し、大晦日の夜が再現される。

実際の家主役となまはげの会話は男鹿地方の方言で会話される。
また、来場者の近くでもなまはげが暴れ回るため来場者が臨場感のある体験が出来るように工夫されたプログラムとなっている。

○なまはげ館の展示内容

伝承館と隣接するなまはげ館は展示施設となっており、男鹿半島の気候や古くからの漁業に関する情報も含め男鹿半島で育まれた文化を紹介している。
また、シアターではなまはげ行事に関する紹介動画が定期的に上映される。これは多言語での上映も行うことが可能である。

なまはげ館には男鹿半島全域から収集した各集落のなまはげの面が展示されている。全ての面はレプリカではなく実際に集落で使われた本物を展示している。
説明スタッフが常駐しており、各集落ごとのなまはげの特徴など細かい点まで丁寧に説明してもらうことが可能である。

ここに展示されているなまはげの面の一部は今でも実際に利用されており、大晦日の行事の際にはここから持ち出されて集落の行事で使われている。

男鹿真山伝承館を設立した男鹿真山神社宮司の武内様に設立に至った背景等を伺った。

きっかけは地域の伝統を残すこと

- 男鹿真山伝承館が出来た経緯を教えてください。
昭和50年代には特になまはげの展示施設もなく、極たまに学生などが調査の一環として訪れる事があった。その際に色々と口頭で説明していたが、徐々に訪問する方が増えるに伴い「常設でなまはげを説明ができる施設があった方が良いのではないか」と思い、動き出した。

なまはげは男鹿半島の地区ごとに行われる行事であり、それぞれなまはげの面も所持する道具も異なる。ただ、当時は各地区のなまはげに関する資料も揃っていなかったため、まずは各地のなまはげのお面や情報を収集することから始めた。1990年には小さな民家を改装し伝承館として展示を始めた。(今の男鹿真山伝承館の前身の施設)

1993年に「大晦日のなまはげ行事を観光客にも見せたい」という相談を受け、当時の伝承館を活用し観光客に対して大晦日の日中に実際になまはげ行事を体験して頂いた。それが評価が高かったため、その後も定期的に行われるようになった。

今の男鹿真山伝承館は1996年に男鹿市内の古民家を移築して開館した。また、1999年にはその隣りにこれまで収集したなまはげ面や行事に関する資料を展示する施設として男鹿市が「なまはげ館」を建設、開館した。

伝承館では昔ながらの「真山地区のなまはげ行事」が体験できる様にしながら、隣りのなまはげ館ではなまはげのお面の展示だけでなく、大陸との交流なども含めた「男鹿半島の文化」を展示する様になった。
- 今はどんな運営が行われているのでしょうか。
伝承館で行われるなまはげ行事の再現は、元々大晦日のなまはげ行事に携わっていた地元の人たちが担ってくれている。
彼らにとっても、行事以外で演じる機会があることで、なまはげに誇りを感じている部分があると思う。

伝承館は補助金は一切利用せず、入場料収入で運営している。東日本大震災後ようやくここ数年で客足が回復しつつあったが、新型コロナウィルスの影響で改めて大きな課題が出てきている。

地域における伝承館の役割

- 伝承館が出来てからこれまでに感じる変化はありますか。
昭和50年代にはどの地区のなまはげ行事も衰退傾向にあり、この真山地区でも担い手の減少など問題を抱えていた。
伝承館が開館し、なまはげ行事を多くの観光客に楽しんで学習してもらうことで、地域内でもなまはげに対する意識が高まったと考えている。また、2018年にはユネスコ無形文化遺産に登録された事もあり、近年では若者を中心として地域のなまはげ行事を復活する動きも出てきている。
- 訪日外国人も訪れることが増えたと思うがその対応はどうしていますか。
新型コロナウィルスの影響が出る前までは外国人旅行者も増加傾向であった。そこで、なまはげに関する説明を翻訳してタブレットで表示する事で多言語で学べる環境の整備を整えている。

観光活用と伝統の継承の双方を大切にする

- 伝承館として大切にしている事は何でしょうか。
男鹿真山伝承館では「伝統を忠実に再現する」ことを心掛けている。
メディアや地域外での露出が増えることで、「なまはげ = 怖い、子供を泣かせる」といった印象が浸透しているが、本来なまはげは除災招福を祈る年神の存在であり、邪気に打ち勝つために勇ましい姿をしている。また、家を訪れるなまはげに対峙するのは家主である父親である。

これらの「なまはげとは何か」という本質部分を伝える役割を伝承館では果たしている。なまはげ館の展示物で知識を得た後に、なまはげ行事の再現を体験することで、しっかりと男鹿市の伝統文化・習俗を体感してもらうことが狙いである。

なまはげ館
https://namahage.co.jp/namahagekan/

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