LivingHistory

先進的な取組み

【インタビュー】アメリカ・ヴァージニア州「コロニアル・ウィリアムズバーグ」の取組み

人気プログラム“Meet Nation Builders
米国ヴァージニア州ウィリアムズバーグは、18世紀の約80年間、ヴァージニア州都として植民地時代の政治、教育、文化の中心地だった。アメリカ国民にとって歴史的な意味合いの強い都市である。

この地にあるコロニアル・ウィリアムズバーグは、122ヘクタールの歴史的地域、まさにLiving History博物館だ。1920~30年代にロックフェラーの支援により18世紀当時の様式で多くの建造物が再建され、オリジナルの88棟と合わせて約500棟もの建造物が植民地時代の街並みを再現している。歴史的地域では、有料で複数のLiving Historyプログラムが実演され、美術館には18~19世紀の歴史的価値の高いものが展示される。
施設運営団体は、そのミッションを “To feed the human spirit by sharing America’s enduring story.”(アメリカの不朽の物語を共有して人々の精神を豊かに)としており、日本ほど歴史愛好家が多くはない米国において、歴史認識の重要性を伝える役割を果たしている。
歴史に興味を持たせるアイデア、効果的なプロモーションなど、日本の施設でも転用できそうなポイントを紹介する。

広大な敷地内に街並みを再建した、歴史テーマパーク

コロニアル・ウィリアムズバーグのLiving Historyプログラムには、再建された古い建物や、昔の衣装を着た役者の演技、解説、館内ツアーにより、複雑な歴史を分かりやすく表現。来場者が楽しく体感できる仕掛けが施されている。
同施設においてプログラム開発マネージャーを務めるステファン・シールズ氏と美術館運営部長リチャード・ハドレイ氏に話を伺った。
博物館長であるヴァージニア士官学校中佐のマーシャル氏から話を聞いた。

- この施設ならではの魅力を教えてください。
何と言っても広さです。広大な敷地に様々な建物を再現しています。そこで解説者の説明を受けたり、当時の衣装を着た役者の演技や、職人や店員が働く様子を見たりすることができます。18世紀の居酒屋がレストランやホテルとして再建されており、チケットなしで楽しめるエリアもあります。
- Living Historyプログラムでは、どのようなものに人気がありますか?
一番人気は「Meet Nation Builders」という演劇プログラムで、役者たちが建国のヒーローに扮してスピーチします。誰もが知っているジョージ・ワシントン、人種など複雑な問題に深く関わったトーマス・ジェファーソンの回は、非常に多くの人が集まります。
演者自身が学芸員と相談して台詞を考え、史実に基づきながらも個性豊かなキャラクターに育て上げます。回を重ねるごとに演技力も向上し、お客様を楽しませています。
- 演者と一緒に美術館内を回れるツアーも人気だと聞きましたが。
はい。週3回行っているプログラムで、建国のヒーローに扮した役者が、15名ほどのお客様を連れて館内を案内します。これは「Nation Builders」展示担当者と教育部門のスタッフの意見交換で生まれた企画です。とても人気があり、満員になるほどです。アンケート調査では、テクノロジーを使った設備より、“人”による説明のほうが満足度が高いとの結果も見られます。波及的な効果も含め、この企画により収益は上がっていると言えます。

歴史を知ることは、国を愛すること

アメリカ合衆国は、18世紀の建国と歴史が短く、様々な文化が混ざり合う複雑な国家。米国で歴史を語ることは、長い歴史のある日本とは違う意味合いを持つと言う。

- 日本では歴史ファンが多いですが、米国ではいかがでしょうか?
米国では歴史を扱った映画や時代劇なども少なく、人々の歴史への関心は薄いです。歴史的な場所に誘引し、人々に歴史の重要性を理解してもらう取組みから始めなくてはいけません。そのため、歴史をストーリーとして伝え、体感し、興味を持ってもらうことに注力しています。日本に歴史好きが多いならば、Living Historyプログラムはきっと成功するでしょう。
- 時代考証はどう行っていますか?
ロックフェラー図書館に多くの書物や建造物の設計図が所蔵されているので、それを利用しています。1607年の英国人入植以前の、アメリカンインディアンの歴史も加えています。
- 歴史を伝えるという意味で、Living Historyプログラム導入の効果はありましたか?
ストーリー仕立てで歴史を伝えるプログラムにしてから、来場者の層が変わってきました。当施設開設当初は中流階級以上の白人をターゲットとしていましたが、現在はあらゆる人種・クラスの人々が訪れます。
歴史を知ることは、国を愛すること。以前の米国は推測や一方的な解釈により歴史を正しく伝えてこなかったように感じます。
ここでは史実に基づき、公正に歴史を伝えることにこだわり、様々な人にこの地の歴史を知ってもらえるよう活動しています。
歴史的地区で定期的に実施のパレード

プロモーション活動と収益

コロニアル・ウィリアムズバーグでは、歴史的な街並みを再現した同施設ならではの強みを生かしたプロモーションや、セールスにも工夫が見られる。
歴史調査研究部長のピーター・インカ―氏、営業部長のポーラ・プリチャード女史のお二方に話を伺った。

- スタッフは何人いますか?
約3,000人です。約400人が歴史的エリアで勤務し、そのうち200人が衣装を着ています。また、これには我々が運営する4つのホテルのスタッフも含みます。
加えて、多くのボランティアにも支えられています。この地には多くの退職者が住んでおり、積極的に参加してくれています。
- 運営の収支について教えてください。
税金の問題もあり、営利団体と非営利団体を設置し、施設運営管理を行っています。
プログラムコストはチケット収入で賄えるのが理想的で、スポンサーシップや寄付金に頼りすぎないことが重要です。幸い、当施設ではロックフェラー財団の資金があるので、それを有効活用しています。また、来場者に寄付を募るシステムもあり、金額により様々な特典を用意しています。
- プロモーションはどのように行っていますか?
新聞やテレビ広告も行いますが、SNSなど手軽にできるものを利用したり、テレビや新聞の取材は積極的に受け、費用をかけず効率よい宣伝を心がけています。ビジュアルに訴求し分かりやすく伝えることが大切。またロケ地としての利用や、衣装調査への協力などもプロモーションに繋がります。
誘客施策は来訪者の多い地域に的を絞って行います。具体的には、旅行会社に向けワシントンDCなど比較的近い地域への観光客が足を延ばしてくれるようなプランを提案しています。チケットは現地ほか、インターネットや地域の宿泊施設、旅行会社からも販売しますが、旅行会社からの販売は特に効果的です。オンラインでも購入できますが、年配者はホテルやレストラン予約と合わせ申し込む方が多いです。

複雑な人種と歴史背景を持つ米国。同施設のエンターテインメント性を出した分かりやすいプログラムは、様々な層に受け入れられ、結果として米国民が自国の歴史に興味を持ち、正しい歴史認識を持つことに寄与している。衣装を着た演者による館内ツアーなど生身の人間による演出は、直接会話をできる喜びが多くの来場者の心をつかんでいる。
日本の多くの施設でも応用できるアイデアと言える。

コロニアルウイリズムズバーグHP
https://colonialwilliamsburg.com/

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